|
まるで誘拐同然のようにジョミー・マーキス・シンに『ミュウの砦』なる場所に連れて来られた。 (何の目的?) 医師派遣を断った腹いせなどではないという。だが真の理由はさっぱり分からなかった。 「ソルジャー・シン、紅茶を入れますね」 「頼むよ、リオ」 と言ってから、ソルジャー・シンはリネットの方を見た。 「あなたも紅茶でいい? それとも……コーヒーかミルクの方が?」 リネットはソルジャー・シンを睨んだまま、無言でその場に立っていた。 「トーストに先ほどのルバーブジャムをつけて食べてみて。それに砦で収穫した野菜のサラダを用意したから。あとはスクランブルエッグと」 「食事をする気分ではありません」 ソルジャー・シンはじっとリネットを見ている。が、やがてダイニングテーブルの方へ歩いていき、その一つの椅子を引いた。 かと思うと、ふっとリネットの身体は先ほどと動揺に浮遊感に襲われる。 (何!?) 気付くとダイニングチェアーにいつの間にか座らされていた。 (またテレポート) こういうことが何でもないことのように出来るのがミュウ。自分自身もミュウであるはずなのに、まるで別世界の話のような感じさえする。 自分の手に持っていたはずのバッグは、ソルジャー・シンが手にしている。 「このバッグは食事の邪魔になるので、長椅子の上にでも置いておきます」 と言ったかと思うと、ふわっとバッグは浮き上がり、長椅子の上に置かれた。 「勝手なことを……」 「ちゃんと丁寧に扱ったから。重要書類も入っていると、昨夜、あなたが言っていたから」 リネットはバッグをチラリと気にしたものの、この分では逃げたところで、また連れ戻されると思い、取り敢えずは少し様子を見ることにした。 リネットが椅子から立ち上がらないことを確認してから、ソルジャー・シンはリオに目で合図を送った。 「リオ」 「はい」 テーブルの上にトーストとロールパン、それにジャムにバター、メイプルシロップのようなもの、そして野菜サラダにフルーツの盛り合わせなどが運ばれてきた。 ソルジャー・シンがリネットの向かいに座り、更にリオが斜め横に座る。 リネットの目の前には紅茶の入ったティーカップが置かれている。 「何がいいのか返事がなかったので、リオに紅茶を入れてもらったけど、他の飲み物が良ければ遠慮なく言って」 と言いながら、ソルジャー・シンはリネットの前の皿にパンを取り分けてくれた。 それからジャムの壜を一緒に置いた。 「これがさっきのルバーブ。ブルーベリーやラズベリーのジャムもあるから、好きなのをどうぞ」 そう言ったソルジャー・シンの目は優しかった。 およそ食欲などないと思っていたが、よく考えて見るとマンションに帰るにしろ、空腹だと力も出ない。だから食べられる時に食べておいた方がいいと判断した。 そこでトーストにナイフでバターを塗ると、手前にあったジャムの壜に手を伸ばす。ジャムの中身は何でも良かった。 仏頂面を隠す気にもなれず、無言でトーストにかじりついた。 (美味しい) リネットは一口かじってからハッとして、自分の持っているジャム付きトーストをじっと眺めた。 顔を上げると目の前のソルジャー・シンと目が合ってしまった。 「口に合ったようで良かった」 紅茶も何やら花の香りがする。 それからリネットは黙々と食べた。 食欲などないと思っていたのに、結局はサラダも卵もパンも食べたし、良い香りのお茶も飲み干した。 「美味しかった?」 などとソルジャー・シンに訊かれたが、リネットは返事をしなかった。 「リネット」 そこでリネットは相手の目をしっかり見据えて口を開く。 「食事を終えたら話してくれると言いました。私をこんな場所へ連れてきた理由を」 「……そうでしたね」 すると斜め横のリオが立ち上がる。 「ソルジャー、僕が後片付けをしますから、どうぞ、ごゆっくりお話をなさって下さい」 「ああ、頼むよ」 リオは皿などを運び、キッチンの奥へと引っ込んだ。 それからダイニングテーブルの前で、二人きりになる。しばらく互いに沈黙していた。 (何なの? まったく) まずは相手が口を開く。 「あなたは……ミュウです」 「そんなこと知っています。だから何ですか? ミュウだというだけでここに連れてきたんですか?」 「それだけではないよ、もちろん」 「じゃあ、何なんですか!」 リネットはイライラしながら言った。 「まずは順を追って話そうかな」 「は?」 「SD体制が崩壊して長い年月が流れて……」 「歴史の話は結構です!」 リネットは苛立ちながら言った。 「僕は転生者です」 「だから? 今回のことと何の関係が?」 ジョミー・マーキス・シンが転生者で、前世でもミュウの長だったというのは有名な話だ。 「SD体制の頃、ジョミー・マーキス・シン率いるミュウとキース・アニアン率いる旧人類が全面戦争を……」 「だから歴史の話は結構です! 早く本題に入って下さい」 「まずは聞いてもらわないと話が出来ない」 ソルジャー・シンは固い表情だった。 「SD体制の頃、ミュウは迫害されていた。ミュウだと発覚すれば殺されるか、または実験施設に送られて実験体になるかのどちらかだった。その難を逃れた者達がミュウの船に集まった」 「それで? あなたがミュウの長になったんでしょう?」 「僕は前世で養父母に育てられて、14歳の成人検査の日にリオにミュウの船に連れて来られた。だから最初からミュウの長だったわけでも、ソルジャーを名乗っていたわけでもない」 「すいませんが無関係な話をするのは止めて下さい」 「無関係じゃない」 「え?」 リネットは首を傾げる。 「ソルジャー・ブルーという名前を聞いたことは?」 (ブルー?) 「何ですか? それは」 今、名前と言ったはずだった。 「誰です?」 リネットはそう言い直した。 「初代のミュウの長の名前です」 「さあ、知りません」 「聞いたことはない?」 「ありません」 それがどうした……という感じだった。 だがふと以前にもこのジョミー・マーキス・シンのブルーという呟きを耳にしたことを思い出した。 「あなたは聴力は?」 「聴力?」 「いえ、何でもないです。そちらの壁を見て、リネット」 「壁?」 ソルジャー・シンの視線はダイニングテーブルの横の白い壁を向いている。 「壁が何ですか?」 「今からここに幻影を投影するから」 「幻影?」 「それを見て欲しい」 と言ったかと思うと、ソルジャー・シンは目を閉じて、何やら集中している様子だった。 そのうちふっと壁に人影のようなものが現れて、やがてしっかりと輪郭を浮かび上がらせた。 リネットはその映った姿に、大きく目を見開いた。 (何、これは……?) 銀河の中に浮かんだその姿は細身で小柄な少年……。ソルジャー・シン同様にマント姿で、頭には補聴器のような物を付けていた。 だがリネットを驚かせたのは、マントでも補聴器でもない。 (何なの?) 流れるような銀色の髪にルビーのような赤い瞳……。 目の前の幻影はやがて消えた。 リネットは訳が分からず、ぼんやりとしていた。 「見ましたか?」 ソルジャー・シンの言葉にリネットはハッとなる。 リネットはソルジャー・シンの顔を見た。 「今のは?」 「ソルジャー・ブルーです」 (ソルジャー・ブルー?) 「今、あなたに見せたのがミュウの初代長、ソルジャー・ブルーです」 リネットが今見たばかりの幻影は、自分自身にそっくりの容姿をしていた。違う部分は服装と補聴器、それに……髪の長さくらいだった。 「だから私をここに連れてきたんですか!」 ソルジャー・シンは無言で頷いた。 「私が……ソルジャー・ブルーとかいう人に似ているから」 するとジョミー・マーキス・シンは瞬きして、それから首を横に振る。 「似ているわけじゃない」 「だって……そっくりでした」 「ソックリなわけじゃない」 意味が分からずリネットはソルジャー・シンを見返した。 「似ているとかそっくりというレベルじゃない! あなたがソルジャー・ブルーなんだ。あなたはソルジャー・ブルー自身なんだ」 リネットは呆気に取られてソルジャー・シンを見ていたが、やがてふうっと息を吐く。 「いい加減にして下さい。頭でもおかしくなりましたか? 今の人は男性でしょう? 私は女です」 「だから?」 「顔が似ていても私ではありません」 「いいえ、あなただ」 「何を根拠に?」 「はっきりと感じます」 「感じる?」 「僕はソルジャー・ブルーを他の人と間違えたりはしません」 「いいえ、間違いです。私はソルジャー・ブルーなんか知りませんから。私はリネット・オリアールです。勘違いも甚だしいです」 リネットはそう言い終えると同時に椅子から立ち上がった。 それから踵を返すと長椅子の方へ駆け寄り、すばやく自分のバッグを引っ掴む。 だが背後から伸びてきた手に腕を掴まれた。 「私に触らないで!」 「ブルー!」 「あなたは頭が変です!」 「僕は正常です」 「痛い! 離して!」 リネットが顔をしかめると、ジョミー・マーキス・シンはすぐに手を離した。 「すみません。そんなに強く握ったつもりはなかったのに……」 本当に申し訳なさそうな顔で言われた。 リネットはバッグを両手で抱え込むようにして、後ずさりする。すると脇にあるサイドボードに腰が当たって、びくっと身体が震えた。 「僕が怖い?」 なぜかソルジャー・シンはひどく悲しそうな顔をした。 「当たり前でしょう? こんな所に無理矢理連れてきて。意味不明のことばかり……」 「あなたは転生者だ、僕と同じで」 リネットはその場に固まったように動けなくなる。 「リネット・オリアールがソルジャー・ブルーなんだ」 ************************** (第12話へ続く) |
| << 前記事(2008/08/13) | ブログのトップへ | 後記事(2008/08/20) >> |
| タイトル (本文) | ブログ名/日時 |
|---|
| 内 容 | ニックネーム/日時 |
|---|---|
こんにちは。 |
オレンジパフェ 2008/08/18 11:25 |
こんばんは。大昔は、ブルーの方が、ジョミーを無理矢理連れてきて、わけの分からないことばっかり聞かせて、人生を変えたんですよね〜 |
ゆず 2008/08/18 22:07 |
今回もドキドキした展開で目が離せませんでした。リネットは自分がソルジャー・ブルーと知ったら、どうするのかなぁと思ったら、ジョミーを拒否して話も信用してないみたいだし。ジョミーがかわいそう・・・。ソルジャー・ブルーの名前も知らないってことは、ジョミーほどブルーは一般に知られていない設定なんですね。 |
nanami 2008/08/18 22:38 |
オレンジパフェさま |
棚木初音 2008/08/18 23:56 |
ゆずさま |
棚木初音 2008/08/18 23:58 |
nanamiさま |
棚木初音 2008/08/19 00:00 |
| << 前記事(2008/08/13) | ブログのトップへ | 後記事(2008/08/20) >> |