カフェオレの香り

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help RSS 翡翠はルビーの夢を見る(第11話)

<<   作成日時 : 2008/08/17 23:00   >>

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 まるで誘拐同然のようにジョミー・マーキス・シンに『ミュウの砦』なる場所に連れて来られた。

(何の目的?)
 医師派遣を断った腹いせなどではないという。だが真の理由はさっぱり分からなかった。

「ソルジャー・シン、紅茶を入れますね」
「頼むよ、リオ」
 と言ってから、ソルジャー・シンはリネットの方を見た。
「あなたも紅茶でいい? それとも……コーヒーかミルクの方が?」
 リネットはソルジャー・シンを睨んだまま、無言でその場に立っていた。
「トーストに先ほどのルバーブジャムをつけて食べてみて。それに砦で収穫した野菜のサラダを用意したから。あとはスクランブルエッグと」
「食事をする気分ではありません」
 ソルジャー・シンはじっとリネットを見ている。が、やがてダイニングテーブルの方へ歩いていき、その一つの椅子を引いた。
 かと思うと、ふっとリネットの身体は先ほどと動揺に浮遊感に襲われる。
(何!?)
 気付くとダイニングチェアーにいつの間にか座らされていた。
(またテレポート)
 こういうことが何でもないことのように出来るのがミュウ。自分自身もミュウであるはずなのに、まるで別世界の話のような感じさえする。
 自分の手に持っていたはずのバッグは、ソルジャー・シンが手にしている。
「このバッグは食事の邪魔になるので、長椅子の上にでも置いておきます」
 と言ったかと思うと、ふわっとバッグは浮き上がり、長椅子の上に置かれた。
「勝手なことを……」
「ちゃんと丁寧に扱ったから。重要書類も入っていると、昨夜、あなたが言っていたから」
 リネットはバッグをチラリと気にしたものの、この分では逃げたところで、また連れ戻されると思い、取り敢えずは少し様子を見ることにした。
 リネットが椅子から立ち上がらないことを確認してから、ソルジャー・シンはリオに目で合図を送った。
「リオ」
「はい」
 テーブルの上にトーストとロールパン、それにジャムにバター、メイプルシロップのようなもの、そして野菜サラダにフルーツの盛り合わせなどが運ばれてきた。
 ソルジャー・シンがリネットの向かいに座り、更にリオが斜め横に座る。
 リネットの目の前には紅茶の入ったティーカップが置かれている。
「何がいいのか返事がなかったので、リオに紅茶を入れてもらったけど、他の飲み物が良ければ遠慮なく言って」
 と言いながら、ソルジャー・シンはリネットの前の皿にパンを取り分けてくれた。
 それからジャムの壜を一緒に置いた。
「これがさっきのルバーブ。ブルーベリーやラズベリーのジャムもあるから、好きなのをどうぞ」
 そう言ったソルジャー・シンの目は優しかった。
 およそ食欲などないと思っていたが、よく考えて見るとマンションに帰るにしろ、空腹だと力も出ない。だから食べられる時に食べておいた方がいいと判断した。
 そこでトーストにナイフでバターを塗ると、手前にあったジャムの壜に手を伸ばす。ジャムの中身は何でも良かった。
 仏頂面を隠す気にもなれず、無言でトーストにかじりついた。
(美味しい)
 リネットは一口かじってからハッとして、自分の持っているジャム付きトーストをじっと眺めた。
 顔を上げると目の前のソルジャー・シンと目が合ってしまった。
「口に合ったようで良かった」
 紅茶も何やら花の香りがする。
 それからリネットは黙々と食べた。
 食欲などないと思っていたのに、結局はサラダも卵もパンも食べたし、良い香りのお茶も飲み干した。
「美味しかった?」
 などとソルジャー・シンに訊かれたが、リネットは返事をしなかった。
「リネット」
 そこでリネットは相手の目をしっかり見据えて口を開く。
「食事を終えたら話してくれると言いました。私をこんな場所へ連れてきた理由を」
「……そうでしたね」
 すると斜め横のリオが立ち上がる。
「ソルジャー、僕が後片付けをしますから、どうぞ、ごゆっくりお話をなさって下さい」
「ああ、頼むよ」
 リオは皿などを運び、キッチンの奥へと引っ込んだ。

 それからダイニングテーブルの前で、二人きりになる。しばらく互いに沈黙していた。
(何なの? まったく)
 まずは相手が口を開く。
「あなたは……ミュウです」
「そんなこと知っています。だから何ですか? ミュウだというだけでここに連れてきたんですか?」
「それだけではないよ、もちろん」
「じゃあ、何なんですか!」
 リネットはイライラしながら言った。
「まずは順を追って話そうかな」
「は?」
「SD体制が崩壊して長い年月が流れて……」
「歴史の話は結構です!」
 リネットは苛立ちながら言った。
「僕は転生者です」
「だから? 今回のことと何の関係が?」
 ジョミー・マーキス・シンが転生者で、前世でもミュウの長だったというのは有名な話だ。
「SD体制の頃、ジョミー・マーキス・シン率いるミュウとキース・アニアン率いる旧人類が全面戦争を……」
「だから歴史の話は結構です! 早く本題に入って下さい」
「まずは聞いてもらわないと話が出来ない」
 ソルジャー・シンは固い表情だった。
「SD体制の頃、ミュウは迫害されていた。ミュウだと発覚すれば殺されるか、または実験施設に送られて実験体になるかのどちらかだった。その難を逃れた者達がミュウの船に集まった」
「それで? あなたがミュウの長になったんでしょう?」
「僕は前世で養父母に育てられて、14歳の成人検査の日にリオにミュウの船に連れて来られた。だから最初からミュウの長だったわけでも、ソルジャーを名乗っていたわけでもない」
「すいませんが無関係な話をするのは止めて下さい」
「無関係じゃない」
「え?」
 リネットは首を傾げる。
「ソルジャー・ブルーという名前を聞いたことは?」
(ブルー?)
「何ですか? それは」
 今、名前と言ったはずだった。
「誰です?」
 リネットはそう言い直した。
「初代のミュウの長の名前です」
「さあ、知りません」
「聞いたことはない?」
「ありません」
 それがどうした……という感じだった。
 だがふと以前にもこのジョミー・マーキス・シンのブルーという呟きを耳にしたことを思い出した。
「あなたは聴力は?」
「聴力?」
「いえ、何でもないです。そちらの壁を見て、リネット」
「壁?」
 ソルジャー・シンの視線はダイニングテーブルの横の白い壁を向いている。
「壁が何ですか?」
「今からここに幻影を投影するから」
「幻影?」
「それを見て欲しい」
 と言ったかと思うと、ソルジャー・シンは目を閉じて、何やら集中している様子だった。
 そのうちふっと壁に人影のようなものが現れて、やがてしっかりと輪郭を浮かび上がらせた。
 リネットはその映った姿に、大きく目を見開いた。
(何、これは……?)
 銀河の中に浮かんだその姿は細身で小柄な少年……。ソルジャー・シン同様にマント姿で、頭には補聴器のような物を付けていた。
 だがリネットを驚かせたのは、マントでも補聴器でもない。
(何なの?)
 流れるような銀色の髪にルビーのような赤い瞳……。
 目の前の幻影はやがて消えた。
 リネットは訳が分からず、ぼんやりとしていた。

「見ましたか?」
 ソルジャー・シンの言葉にリネットはハッとなる。
 リネットはソルジャー・シンの顔を見た。
「今のは?」
「ソルジャー・ブルーです」
(ソルジャー・ブルー?)
「今、あなたに見せたのがミュウの初代長、ソルジャー・ブルーです」
 リネットが今見たばかりの幻影は、自分自身にそっくりの容姿をしていた。違う部分は服装と補聴器、それに……髪の長さくらいだった。
「だから私をここに連れてきたんですか!」
 ソルジャー・シンは無言で頷いた。
「私が……ソルジャー・ブルーとかいう人に似ているから」
 するとジョミー・マーキス・シンは瞬きして、それから首を横に振る。
「似ているわけじゃない」
「だって……そっくりでした」
「ソックリなわけじゃない」
 意味が分からずリネットはソルジャー・シンを見返した。
「似ているとかそっくりというレベルじゃない! あなたがソルジャー・ブルーなんだ。あなたはソルジャー・ブルー自身なんだ」
 リネットは呆気に取られてソルジャー・シンを見ていたが、やがてふうっと息を吐く。
「いい加減にして下さい。頭でもおかしくなりましたか? 今の人は男性でしょう? 私は女です」
「だから?」
「顔が似ていても私ではありません」
「いいえ、あなただ」
「何を根拠に?」
「はっきりと感じます」
「感じる?」
「僕はソルジャー・ブルーを他の人と間違えたりはしません」
「いいえ、間違いです。私はソルジャー・ブルーなんか知りませんから。私はリネット・オリアールです。勘違いも甚だしいです」
 リネットはそう言い終えると同時に椅子から立ち上がった。
 それから踵を返すと長椅子の方へ駆け寄り、すばやく自分のバッグを引っ掴む。
 だが背後から伸びてきた手に腕を掴まれた。
「私に触らないで!」
「ブルー!」
「あなたは頭が変です!」
「僕は正常です」
「痛い! 離して!」
 リネットが顔をしかめると、ジョミー・マーキス・シンはすぐに手を離した。
「すみません。そんなに強く握ったつもりはなかったのに……」
 本当に申し訳なさそうな顔で言われた。
 リネットはバッグを両手で抱え込むようにして、後ずさりする。すると脇にあるサイドボードに腰が当たって、びくっと身体が震えた。
「僕が怖い?」
 なぜかソルジャー・シンはひどく悲しそうな顔をした。
「当たり前でしょう? こんな所に無理矢理連れてきて。意味不明のことばかり……」
「あなたは転生者だ、僕と同じで」
 リネットはその場に固まったように動けなくなる。

「リネット・オリアールがソルジャー・ブルーなんだ」
 

**************************


(第12話へ続く)

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
こんにちは。
ようやくブルーが真実を知りましたね。
でもブルーは全然信じてないんですね。
まだまだジョミーの苦悩が続きそう。
オレンジパフェ
2008/08/18 11:25
こんばんは。大昔は、ブルーの方が、ジョミーを無理矢理連れてきて、わけの分からないことばっかり聞かせて、人生を変えたんですよね〜
それが逆転するとは、皮肉ですね!?
ゆず
2008/08/18 22:07
今回もドキドキした展開で目が離せませんでした。リネットは自分がソルジャー・ブルーと知ったら、どうするのかなぁと思ったら、ジョミーを拒否して話も信用してないみたいだし。ジョミーがかわいそう・・・。ソルジャー・ブルーの名前も知らないってことは、ジョミーほどブルーは一般に知られていない設定なんですね。
nanami
2008/08/18 22:38
オレンジパフェさま
はい、真実を知るには知りましたが、ジョミーの苦悩はまだまだ続きそうです。
ジョミーの情熱(?)が通じる時は来るのでしょうか?
棚木初音
2008/08/18 23:56
ゆずさま
そうそう、前世の逆バージョンなんですよ。
今回はジョミーがブルーを無理矢理連れてきたんですね。
ブルーは私的には理屈っぽい人(?)と思っていました。
でもジョミーはそういうタイプではなく、自分の感情のままに動くタイプだと思っています。
なので説き伏せるよりは、実行に移した方が似合っているかも?
棚木初音
2008/08/18 23:58
nanamiさま
そうですね、女ブルー(リネット)はジョミーを今のところ拒否しているようです。
ソルジャー・ブルーは早くに死んでいるし、ジョミーと比較すると、ミュウの長としての活躍度も少なかった(船で待機の時間が長かった)ので、世間的には名前を知られていないという感じになっています。
対してジョミーはSD体制を崩壊させたという功績があるので、有名になったということです。
棚木初音
2008/08/19 00:00

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