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マツカはエプロンを外しながら言った。 「チョコレート、たくさん作ったから」 「楽しみだなあ」 と真っ先にイーファが言う。 「アーネストはお父さんにもお持ち帰りしてね」 それまでのやり取りを知らないマツカは笑顔だった。 「すいませーん、ジョナ教官。ありがとうございます」 シロエもまたニッコリと笑顔だ。 ミハイルだけが無言だった。 キースは天井にチラリと目をやる。 (アースは何が気に入らなかったんだ?) コンパの話をしていただけなのに……。そもそもコンパの意味を知ったところで、アースに何の関係があるのかと思った。 (男女の交際のことを聞いたのが不快なのか? おとなしい性格だし潔癖症なのかもしれないな) 最近のアースはどうも理解しにくい部分がある。難しい年頃になってきたのかもしれないと思った。 (まずは言うことは言っておかないと) 「お前達に言っておきたいことがある」 とキースは切り出してから、ミハイル、シロエ、イーファの顔を順番に見た。 「何でしょう?」 「何をかしこまってんの?」 「何かまずいことしましたか?」 キースの雰囲気を察してか、三人はそう言った。 「今後、コンパなどというくだらない行事に参加することを禁止する」 するとその場が沈黙した。 「もちろんオズボーン准将にもその旨、伝えておく。オズボーン准将からは前回の件はお前達を咎めないように頼まれている。だから前回の件はなかったことにして水に流す。しかしこれからは違う。身元も分からないような女とたまたま親しくなったから交際するとか、そういう安易はことはやめておけ。お前達は軍人だ。しかも司令官副側近にミュウ特別部隊副隊長に爆発物処理班名誉班長という立場だろう。部下に対してみっともない真似はするな」 「コンパのどこがみっともないんですか?」 とイーファは露骨に不機嫌な顔になる。 「どうせ、俺は爆発物処理班の名誉班長なんて向いてないですよ。解体に失敗したんだから」 今まであまりその件について口にしなかったのに、珍しくイーファが自分から年末の時のことを出してきた。 「イーファ、その話はやめましょう」 と口を挟んだのはマツカだ。 「ところでコンパって何ですか?」 「お前もコンパを知らないのか、マツカ」 「嫌だ、意味は知っていますよ。私が訊いたのはどうしてそんなコンパなんかを開催したのかっていうことです」 「そんなことはオズボーンに訊け」 「わざわざ訊けませんよ、私は」 「見合いの世話から遠ざかって退屈だったとか言っていた」 「そうですか……」 「まったくコンパなど実にくだらない!」 「忙しすぎて軍人は出会いの場が少ないですから、たまにはそういう気晴らしも必要だと思ったんでしょうね。オズボーン准将は世話好きですから」 キースはマツカをジロリと睨む。 「出会いは充分にある。そこにいるアーネストだって、この前のミスコンの時は女性隊員を連れていっただろう? 外でわざわざ探さなくても身近に大勢女がいるじゃないか」 そこでレッドがピクリと反応した。 「ミスコンって? この前の? アーネストが護衛についたやつでしょ? 女性隊員って?」 そこでキースはレッドに言ってやった。 「私がカップルを装うように指示した。要するに作戦の一部だ。だがちゃっかりお気に入りの女隊員をちゃんと連れていったぞ」 するとレッドは今度はシロエの顔を見る。 「本当なの?」 「まあね」 などと言ってレッドはけろっとしている。 「女隊員って誰?」 「レッドに名前を教えても分かんないよ」 「どうせ僕は軍人じゃないから」 と、レッドは険しい表情になる。 「それに子供には関係ないことだよ」 シロエに言われてレッドの表情はますます険しいものになった。 「あ、俺、アーネストがミスコンに連れてった子の名前を知ってるよ。エイミーちゃんとか呼んでたよな、お前」 とか余計なことを言ったのはイーファだった。 「そ。エイミーちゃんだよ。エイミー・シモンズ伍長。若くて可愛いし優秀だし、話しても楽しいし。すごくいい子なんだよね」 などとシロエが浮かれた調子で言った。 (何がエイミーちゃんだ) キースもレッド同様に面白くないような気分になった。 すると仏頂面のレッドが無言でさっさと居間を出て行ってしまった。 (やれやれ今度はレッドか) 兄弟揃っていなくなってしまった。 シロエがシモンズ伍長の話をしたのが気に入らなかったらしい。 「二人ともいなくなっちゃって。せっかくチョコレートを出そうと思ったのに」 とマツカが天井を見上げている。 「何も今、コンパの話を持ち出さなくても良かったんじゃないですか? 子供達もいるのに」 「軍内でコンパ話をしろと言うのか? それこそ相応しくないだろう」 「それにしても……オズボーン准将はよほど退屈だったんでしょうか。見合い話を進めるのが好きなのは知っていたけれど……。何か他に楽しみがあるといいかもしれませんね」 「年寄りだからな。他人の世話をするのが生きがいのような男だし」 するとそこへひょいと幼いハニーがやってくる。 「ねえ、ママ。今度また、オズボーンおじちゃまのところへ遊びに行きましょうよ」 「それがいいかもしれないね。オズボーン夫人もいつも歓迎して下さるし。この前はオズボーン夫人がハニーにリボンを買って下さったんですよ」 「これがそうなの。見て、パパ」 とハニーが頭に付けているピンクのリボンを指差した。 (リボンか) 元々はリボンを初めてハニーに買い与えたのはキースだった。 マザー・イライザの像に似て見えないように……と思ったのである。 「キースパパのコーヒーが入ったけど……あれ? レッドやアースはどこへ行ったの?」 キッチンから戻ってきたサムがキョロキョロしている。 「大人はコーヒーで子供は紅茶かホットミルクを入れて、チョコレートを食べようと思っていたんだけど」 マツカは二階へ子供達を呼びに行こうとしていた。 「ジョナ教官、僕が呼んできます」 と言ったのはミハイルだった。 「そう? じゃあ、お願いね、ミハイル」 ミハイルは固い表情のまま、居間を出て行った。 「アーネスト、お前も行け」 とキースはシロエの顔を見てそう指示した。 「え?」 《シロエ、レッドがお前を慕っていることを、お前だってよく知っているだろう》 と今度は送話してやった。 「分かったよ」 と今度のシロエは素直に言った。 ************************** アーネスト・クラウンことセキ・レイ・シロエはゆっくりと階段を上がっていった。 (キースが妙にうるさくなったな) 子供が出来てキースは変わった……ような気がする。 レッドの部屋に行こうとして、ふと気付いた。 (ミハイルの姿がない) 廊下でアースの様子伺いでもしているのかと思っていたのだが……。 (まずはアースの部屋を先に様子伺いするか) と、シロエはアースの部屋の前のドアにそっと近付く。 気配を消してからサイオン能力をフルに活動させた。感応力透視能力を使って中の様子を伺った。 (ミハイルとアースだ) 何やらアースが目をこすっているように見える。泣いているのかもしれない。 (なんかイマイチ透視の力が鮮明じゃないな。兄さんくらいの力があれば楽々なんだろうけど) この際、仕方がない。 ドアの向こうの二人の会話が聞き取れた。 《僕がいるのに……》 《アース》 《僕がいるのにどうして女の子がいっぱいいる集まりになんか行くの?》 《無理矢理に連れていかれたんだ、さっきも言ったけど》 《どうせ、僕は男だもん。女の子にはかなわないよ》 と言ってアースが鼻をすすりながら涙をこすっている。 (ははあ、やっぱアースは泣いてるな) ヤキモチとかいうヤツだろうか……と考えていた。 シロエはそのままミハイルの反応を待った。 《女の子に生まれれば良かった》 《アース》 《そうしたらミハイルは僕をお嫁さんにしてくれた?》 《男の子でも女の子でも僕はアースが好きだよ》 するとアースは涙をぬぐう手を目から離した。 その後は……ミハイルがアースの肩に手を回して引き寄せて……。 (止めた! これ以上は見てられない) また熱烈なラブシーンを見る羽目になりそうだと思い、シロエはその部屋のドアから離れる。 それから今度は目的通りにレッドの部屋の前に立った。 ノックをしようとしてから、音が隣のアースの部屋に響いては……と思い、一気にテレポートする。 ふっといきなり部屋に現れたシロエに、レッドは目を大きく開いた。 「シロエ」 レッドは勉強机の前の椅子に一人座っていた。 「レッド、下に行こう」 するとレッドはふいと目を逸らす。 (横顔は正面よりもキースに似てるな) 「せっかくジョナ教官がチョコレートを用意してくたんだし」 「シロエはチョコレートをいっぱいもらったんじゃないの?」 「そりゃあ、まあ、何個かは」 「エイミーとかいう人からも?」 「もらったよ。コアラの形のチョコ」 「義理チョコみたいだね。ブランドの高級生チョコとかじゃなかったんだ?」 少しレッドの表情が和らいだ。 「隣の部屋の様子は?」 とシロエが訊くとレッドは怪訝そうな顔になる。 「隣の部屋? アースのこと?」 「そう。何か聞かなかった?」 「何かって?」 「ミハイルが行ったみたいだからさ、会話とか……」 するとレッドの目が釣り上がる。 「この家はミュウと旧人類が一緒に暮らしているんだよ。他人の心を読める者と読めない者がいる。読める者が自由自在に家族の心を読むのはルール違反だと思うよ。僕もアースも家族間で盗み読みはしないことにしてる。ママにそう教えられて育ったから」 (ジョナ教官……) ああ、そうだった。 (ジョナ教官はそういう人だっけ) 「そうだった、ごめん。とにかくレッド下に行こう」 「エイミーって人と他にどこか行った?」 「行ってないよ」 「ふーん。映画とは行かないの?」 「別に今は見たい映画もないよ」 「僕はあるよ」 「そうなのか?」 「パパとハルが一緒に見た映画。僕も見たいんだ」 「分かった、じゃあ、僕と行こう」 「本当?」 「今度の休みにね」 するとレッドが静かに椅子から立ち上がる。 「その後は一緒にお昼を食べたいな」 「いいよ」 と答えてからシロエは苦笑する。 (これじゃあ、どっちかが女だったらデートみたいだな) 「じゃあ、レッド、下にチョコレートを食べに行こう」 レッドはしっかりと頷いた。 ************************** (終) |
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